ベーグルの発祥にはいろいろな説がありますが、どうやら14世紀のポーランドのようです。でも今やベーグルと言えばNYですよね?何故ポーランドではなくNYなのでしょう?
調べてみたところ、ベーグルって結構奥が深く、歴史や宗教と密接な関係があることが分かってきました。
ベーグルの発祥は今のポーランドのあたり
ベーグルの発祥については、とてもたくさんの説がありますが、ポーランドあたりで生まれたことと、ユダヤ人が深く関係していたことは間違いないようです。
ベーグルの原形が出来たのは14世紀
ベーグルが記録されている一番古い文書は、14世紀末のポーランド皇室文書です。この文書には「オブヴァジャネック」というパンが記録されていて、これがベーグルの原形と言われています。オブヴァジャネックは今でもポーランドのクラフクで売られています。
14世紀末と言えば、日本では室町時代の初め、醤油や出汁が生まれた頃です。どうやらベーグルには醤油や出汁と同じくらいの歴史があるようなのです。パンの歴史は7000年ほど前の古代メソポタミアまで遡るので、平安時代に生まれたベーグルは新顔と言ってもいいかもしれませんが、それにしても長い歴史ですね。
ベーグル発祥の物語
ベーグルの発祥は14世紀なのですが、ほかにも様々な伝承があります。中でも有名なのは「1683年にトルコ侵略を阻止したジョン・ソヴィエスキー王子に、ウィーンのパン屋が王子の馬のあぶみの形を模したパンを焼いたのがきっかけだ」という説です。
話がドラマチックなので、今ではこの説の方が良く語られています。物語の舞台となった1683年は、日本では江戸時代の初めです。本当の発祥時期である室町時代とはだいぶ違いますが、素敵な言い伝えだと思います。ベーグルと宗教
ベーグルはユダヤ人が、宗教的な意味あいで焼いていたパンでした。かつてのユダヤ人は貧しく、普段はライ麦で作った黒いパンを食べていたのですが、ユダヤ教の重要な日である安息日(金曜の日没~土曜の日没)だけは、白い小麦でパンを焼き、神に感謝をささげ、これを食べていたのです。
しかし1つ問題がありました。ユダヤ教には、親と子を一緒に食べてはいけない、という決まりがあるのです。この教えに従うと、肉類と乳製品や、鶏肉と卵を同時には食べられません。ところが普通のパンには卵も、乳製品も入っていますから、パンを食べるなら、肉類は食べられません。そこでユダヤ教の人々は卵も乳製品も加えずにパンを焼くようになりました。これが今日のベーグルのレシピの基本になっています。卵も牛乳もバターも使わないベーグルは、ユダヤ教の教えに従って作られたパンなのです。
ベーグルがヨーロッパから消えたわけ
このようにユダヤ人の宗教に根付き、広く食べられるようになったベーグルですが、20世紀になると急速に姿を消していきます。これは1928年に起こった世界大恐慌と、1939年に始まった第二次大戦のさなかに、ヨーロッパ全土でユダヤ人排斥運動が起こったためです。ユダヤ人が経営するベーカリーが相次いで閉鎖されただけでなく、ユダヤ人であることを隠すために、ユダヤ人がベーグルを食べなくなったのです。
そして第二次大戦が終わったころには、虐殺や国外移住でヨーロッパのユダヤ人は激減していました。こうしてベーグルはヨーロッパから姿を消したのです。
ベーグルがNYに伝わる
数十年にわたる迫害によりヨーロッパを追われたユダヤ人の多くは、大西洋を渡りアメリカ東海岸を目指しました。その玄関口となったのがニューヨークです。
ニューヨークに移り住んだユダヤ人が、ベーグルを作り始めたことで、ニューヨークがベーグルの新しい中心地となったのです。
ベーグルとニューヨーカー
今ではニューヨーカーには欠かせないベーグルですが、そうなるまでには、長い時間がかっています。海を渡ったユダヤ人の多くがニューヨークに定住しましたが、ベーグルはすぐには広まらなかったのです。
ニューヨークの見えない壁
ベーグルが広まるには、人種間の壁は高すぎました。ニューヨークに住んでいると、人種間の超えられない一線を感じることがあります。毎日一緒に仕事をして、休日に遊んだりする間柄になっても、なんとなく超えられない一線を感じます。文化や宗教の違いが見えない壁になるのです。
そんな中でも、敬虔なユダヤ教徒の方々は、風貌や生活習慣が違い過ぎるために、コミュニケーションを取れる機会が極端に少ないのです。ユダヤ教信者はキリスト教信者よりも社会に溶け込むのに時間がかかったと思われます。宗教的意味を持つベーグルが、違う宗教の人の目に触れにくかったのも当然でしょう。
そんな「隠れた食材」であったベーグルも、1960年代になると工業化により大量生産されるようになります。今まではユダヤ教信者以外の目には触れなかったベーグルが、店頭で売られるようになったのです。こうしてベーグルは少しずつ一般的になっていきます。
日本で生まれ変わるベーグル
18世紀に世界各地に広まり始め、第二次世界大戦を機にニューヨークへと大移動したベーグルですが、日本に来たのは1980年代に入ってからです。
ベーグルを始めて日本で市販したのは、ライル・B・フォックスさんです。今でもお元気です。
フォックスさんは日本に派遣されたジャーナリストでしたが、日本での生活でベーグルが食べられないのを残念に思うあまり、ご自身でベーグルを焼き始め、1982年には「フォックス・ベーグル」というお店までオープンしてしまいます。これが日本で最初に売られたベーグルです。さらに1992年には、Bagel Kというお店がベーグルの輸入を開始したこともあり、ベーグルが少しずつ知られるようになりました。
残念ながらフォックス・ベーグルもBagel Kも今はありません。フォックスベーグルは2002年に閉店、Bagel Kは2009年ごろまで通販専門店として残っていましたが、現在は営業していないようです。
ジャパニーズ・ベーグル
フォックス・ベーグルやBagel Kが日本に持ち込んだベーグルは、その後日本流にアレンジされます。例えば日本で最も有名なベーグル専門店であるベーグル&ベーグルでは、本場よりも柔らかく焼くことで、食べやすいベーグルを作っています。
BAGEL & BAGEL(ベーグル&ベーグル)では、”しっとり&もちもち”の食感にこだわり、他ブランドに比べソフトな仕上がりになっています。
さらに中にクリームを練り込んだクリーム in ベーグルや、クロワッサン生地と合わせた、クロワッサンベーグルなども販売するようになりました。「そんなのベーグルじゃない!」という意見もありますが、私はこれで良いのだと思います。例えば普通のパンが日本で一般的になったのは、日本流にアレンジされたアンパンが売られるようになってからです。パンが初めて日本に伝わったのは鉄砲と同じ1543年で、アンパンが発売されたのは1874年ですから、実に300年以上もの間、パンは不人気食品だったのです。それを今のような人気商品に変えたのは、アンパンという日本にしかないパンが生まれたことがキッカケなのですから、ベーグルでも同じことが起こると思うのです。
クリーム in ベーグルやクロワッサンベーグルのようなジャパニーズベーグルが、ベーグルにとってのアンパンになってくれれば、そのうち本場と同じ硬いベーグルの人気も上がるでしょう。ニューヨーク・ベーグルだけではなく、ジャパニーズ・ベーグルが海外で人気となる日が来るかもしれませんね。
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